紗の心
逢わない約束をしたが、車で見に行った。
その人が姿を消した・・。
捜すあてもない。
(どうして何も告げずに居なくなってしまったんだ。いや、これでいいんだ)
その後私は、やはり捨てられない家庭をそのまま 守ろうと日々を送っている。
私は以前と変わらない生活を送るようになってきた。
以前・・そう、その人と出会う前のこと。
変わったこともなくはない。
私の夢の出来事のせいであると思うが、実際のところは曖昧なまま過ごしていることも
ある。
暫くぎくしゃくしていた妻とも同じ部屋に暮らしている。
だが、日々心を平穏に努めてはきたが、その人のことは、まだ時々思い出しはする。
その度に、薄らいでいる記憶が増えている。
いつか忘れてしまうのだろうか。
半月ほど前の桜が咲き誇る頃、あのお寺の正門から見える町並みを、眺めに来た。
昨年の桜の頃は、その人との接点を探して、ココにやってきた。
どこでもここでも何かないかと、その人に繋がるものを求めていた気がする。
その時見たこの景色に、心が安らいだ。
こんないい場所をその人が捨てるわけないと・・。
ココを離れてまでも、その人が想う何かを見つけるまで、私はこの風景の中で待って
いよう。
そんなふうに思っていた。
今年もココから見る景色は変わらず、安らぎをくれる。
桜色の絨毯とはいかないが、桜色のクッションが街のあちらこちらに見える。
近所の人や寺に訪れる人には知れた場所なのだろう、2、3人の一塊が入れ替わりやって来ては、見て通る。
私は、時々声を掛けられたり、挨拶をしながら 暫く眺めていた。本当に綺麗だった。