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紗の心

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「はい、ティッシュ」
「あ、すまない」
妻が差し出したポケットティッシュを受け取った。

結婚記念日にレストランに食事に訪れた。
とはいっても、会社の娯楽会であたったディナー券を、近日に訪れたこの日にあてた
だけだが、妻は喜んでくれた。
最近は、洋食といっても、箸があるところがある。
私が利用するファミリーレストランのようなところだけかもしれない。
今日は、不慣れなナイフとフォーク、そればかりか、本数も一本ずつではない。
面倒だ。
妻は、「いいの。気取らなくて好きなので食べれば」と言いつつ、しっかりマナーを
わきまえたように気取っている。
やはりというのは、癪だが、フォークにひっかかった料理が膝の上に落ちた。
ナフキンを敷いてはいたが、運悪くないところに落としてしまったのだ。

私は、ティッシュペーパーを引き出し、汚れをぬぐった。
ふとペーパーの間に異質のものが挟まれていた。
何かの袋の切れ端のようだ。
だが、それはここでは尋ねることはやめておこう。
私は、残りを妻には返さず、上着のポケットに押し込んだ。

夫婦の会話といっても日常となんら変わりはない。
場所が違うだけだ。
だが、仕事を終えた後の、ビールとつまみではない。
妻も仕事から帰って忙しく作った料理ではない。
楽しんでくれれば、それもいいかと思う。
「これ美味しい。あら崇さん、それ食べられたの?苦手だって言ってたくせに、
料理しだいなのね」とすねる。
「食べなきゃ、もったいないでしょ。味付けは、君のほうが私の口に合ってる」
「まあ、それって、料理しなさいって言われてるようだわ」
「そんな事言うなよ。いつも感謝してる。これからは、ふたりなんだから、
たまには外食もしようか」
「えー、嬉しいな。ってことにしておきましょ」

コースの料理も終わった。
ゆっくり食べた食事は、思いのほか腹がふくれた。
帰りの車は、妻が運転だ。
こんな時ぐらい、電車で出かければ、ふたりとも気にせず、お酒も飲めるのにと妻に
提案したが、「いいの」と車で出かけた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶