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紗の心

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ふたりでソファーに座り、手を繋いだ。
何故そんなことをしているのか、訳などわからない。
「なんだか不思議。こうして佐伯さんと手を繋いでいるだけなのにすごく嬉しい」
「そう?」
「ええ、なんだろ?この手が好きなのかな」
「えっ、私じゃなくて?」
「そんな感じかしら」
「うーん、それは嫉妬するなあ、この手に」
その人は繋いだ手の甲にくちづけた。
舌先で舐めた。
「うふっ、しょっぱい」
「手を洗ってないから、汚いよ」
「大丈夫。お腹はこわさないでしょうから」
片手を取られている間、もう片手でテーブルの菓子を食べた。
指先についた菓子を皿の上に掃おうとしたとき、その人がその指を銜えた。
「こちらは、美味しい」
「紗希さん、変ですよ」
「あら、そうですか。じゃあ佐伯さんのお口ならもっと美味しいかな」
「では、先に私が頂いてみましょう」
私は、この変なやりとりを愉しんだ。
小一時間ほど他愛の無い話を交えて過ごした。
「今日、私は何をしに来たのかな。ごめん」
「紗希を気遣ってくれたのかな。ありがとう」
その人の気持ちを知って私の気もおさまった。

「そろそろ帰る」
「はい」
玄関で靴を履く私の背中にその人はくっついた。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
その人の指が背中で動く。何か書いているように動いた。
(マル?チョンチョン・・あーわからない)
「なんて書いたの?」
その人は、首を横に振り、人差し指を口の前に立てた。
「内緒?」
頷いて、微笑んだ。
(まあいい。また今度聞こう)
「じゃあね」
「はい。じゃあ」
私は、玄関を出た。後ろでドアは閉まった。
車に乗り、その人の家の前を通過するとき、門扉の内側で手を振るその人の姿があった。
私は、テールランプを点滅させ、その路地を出た。

作品名:紗の心 作家名:甜茶