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紗の心

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数日後、やはり気になり、その人の元に訪れた。
連絡も入れないまま、突然に呼び鈴を押した。
ドアが開き、顔を覗かせたその人は、驚きつつ微笑んだ。
「あ、佐伯さん。来てくださったの。どうぞ入って。といっても何もしていなくて、
恥ずかしいくらいにくちゃくちゃなの。ちょっと片付けてくるわ」
その人が一旦ドアを閉めかけたが、私は、玄関へと入った。
「もう待っててくださらなきゃ」
私が、両手を広げると、裸足のまま玄関に降り、抱きついてきた。
「いらっしゃい。嬉しい」
私は、その人の頭を撫でた。
手を取って私を部屋へと連れて上がった。

「どうぞ、腰掛けて待っててください」
「あ、今日は、何もお土産なくてすみません」
「そんなこと気になさらないでください。逢えただけでいい」
その人は、薄い茶色の地にススキとエンジ色のトンボ柄の着物を着ていた。
見間違いではなかった。
しかし、衿にかかるくらいに切ってしまった髪が、また似合っていた。
「生徒さんから頂いたお菓子ですけど、どうぞ」
マドレーヌのような焼き菓子とコーヒーをテーブルに置いた。
「紗希さん、髪切ったんですね。先日見かけて貴女なのかどうかと思って」
「それで、確かめに見に来てくださったの?それはどうも。
お電話で『髪切ったの?』って聞けばいいのに」
「いや、それでは味気ない」
「切っちゃったっ。どうですか?似合う?」
「似合ってるよ。でもどうして切ったのかなって」
「本当は、そこが知りたいの?」
私が答えないのが、図星の答えだ。
その人が、その髪を指で触れながら、やんわり笑みを浮かべていた。
黙ったまま、菓子を食べ始めるその人に掛ける言葉を見つけられずにいた。
私はコーヒーを飲んだ。
まだその人は、何も言わない。

作品名:紗の心 作家名:甜茶