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紗の心

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この日、妻も足取りも軽く出かけて行ったくらい、秋の青空が広がっていた。
私は、朝昼兼用の食事を済ませると、車に乗ってその人の元へと向かった。
途中、和菓子屋へと寄り、ふたつ買い求めた。
家の近所まで来て、電話を入れた。
その人は、すぐに出られるからと、家の前に来るようにと告げた。
約束通り、家の前まで着くと玄関外の門扉の陰からその人は顔を出した。
「こんにちは。車に乗ってもいいですか」
「ええ」
私は、助手席のドアを開くとその人は、乗り込んできた。
「少し、ここから離れませんか?」
私は、あの駐車スペースで方向を変えると、広い通りのほうへと車を走らせた。
「こんにちは」
改めてその人が言った。
「こんにちは。あのこれ」
私は、ダッシュボードの上に置いてあった小さな箱をその人に渡した。
「これ・・和菓子?」
渡してやっと意味を察した。
「あ、そういうことでしたか」
その人は、箱を両手で包み小さく頷いた。
「やっぱり、ご迷惑ですよね」
ふたりの間に沈黙の時間が流れた。
その間、私は、むやみに車を走らせていた。というよりどうしようか?
何処へ行こうか?と考えていた。
高速道路から見える大きなところも、道沿いの夜ならネオンが輝く洒落た洋館も、
今は入りづらい。
走っていくと、以前にも迷って脇道に入り込んだとき見つけたホテルの入り口がそこに
あった。
私は、ハンドルをそちらに切った。
駐車スペースも疎らに空いていた。
「降りますよ」
私は、その人の言葉も待たないまま、エンジンを切り、車を降りた。
その人が、自分でドアを開け降りるのを待ってドアのロックをした。
数段の階段を上がると、ドアがある。鍵は掛かってはいない。
中に入ると、インターフォンが鳴った。
「はい」
「ご利用ありがとうございます。お泊りですか?ご休憩ですか?コースの選択ボタンを
押してください。何かご不明な点がございましたら、フロントまでご連絡ください。
受話器を上げていただけば、繋がりますから」
案内の電話が切れた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶