紗の心
「家の事は宜しくお願いします。じゃあ行ってきます」
妻が出かけて行った。
1泊2日の社員旅行だそうだ。
最近は、パート社員といっても積み立てをして旅行の予定まで会社がしてくれるのか。
私の会社には、残念ながらそんな余裕はないというのに…。
しかし、半月ほど前に聞いたこの予定に私も予定をしていることがあった。
その人と会える。
まったく、なんという計画だ。自分でも驚くばかりだ。
だが、予定が変わってもその人を寂しくさせないよう、連絡を取ったのは、一昨日、
いやその前日だっただろうか。
その日は、小雨の降る営業の帰り道。走行方向の左にコンビニがあり、その駐車場に
停まった。
昼飯を食べていなかったので、その店でおにぎりとペットボトルのお茶を買い車中で
食べた。
営業車内に海苔の香りが残った。
シートに凭れ、首や肩をほぐす。
携帯電話でその人に電話を掛けた。
ほどなくして電話は繋がった。
「あの、今度の土曜日に美味しい和菓子を買います。一緒に食べようかと」
「はい、粗茶ですが、よろしければ・・どうぞ」
「何時ごろ伺えばいいのかな?」
「では、お昼を過ぎた辺りに待っていてくださいますか?」
「わかりました」
電話を切った私は、喜びにその意味さえ考えることはなかった。