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紗の心

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駅前で電話をかけた。
コール音が、耳に響く。
(3回、4回、次か?5回、6回)
「はい、紗希です」
「佐伯です。今電話をしてても大丈夫ですか?」
「はい。佐伯さんは今どちらで?」
「仕事帰りの駅前です。あ、まだ会社の方の」
「お疲れのときに電話をくださったのね。ありがとう」
「いや・・・」
かけたものの、言葉が出ない。
小さな咳払いを2、3度した。
「どうかなさったの?今日は、お昼間はいい天気で暑いくらいに暖かでしたね。
なのに今は少し涼しい。気持ちいいですね。もう夕涼みの季節ではないけど窓を開けて
いるといい風が入ってきます」
「……会いたい」
「はい、私も」
その人の声は、澄んでいた。何となく澱んでいたものが消えていくようだ。
「また、お菓子食べましょ」
「和菓子ですか?今はどんなのが出てるんでしょうね」
「そうですねえ、月見のうさぎとか、夕焼けとかかしら。どれも同じみたいだけど」
「紗希さんが食べるとどれもが美味しそうに見える」
「私、そんなにがっついて、食いしん坊に見えてます?(笑)」
「まだ、会いに行けなくて、ごめん」
「どうして謝るの?こうしてお話できて、嬉しいのに。会いたいけど、それは仕方ない
こと」
「紗希さん」
「でも……(会いたい)」
その人の気持ちが 耳元から流れ込んでくるように感じたのは、きっと私自信がそう
願っていたからに違いない。
「今度、連絡するときは、会えるときだといいけど」
「『美味しい和菓子を買いました。』って連絡ください。
『粗茶ですが、どうぞ。』ってお答えしますから」
「それでわかるのですか?」
「ええ、たぶん、きっと。佐伯さんが思ってくださっているのなら伝わります」
「そうですね。そうだといいな。そうだとも、あれ?ははは」
「くすっ、可笑しい。ずっとお外だと冷えるでしょ。大丈夫ですか?」
「平気ですよ。あのアニメのどこでもドアがあったらいいけど、今日は電話できて
良かったです」
「はい」
「ではまた。あ、紗希さんが先に電話を切ってください」
「え?」
「いいから、そうしてください。じゃあまた」
「じゃあ、また」
その人が電話を切った後の『ツーツーツー』を聞いた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶