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紗の心

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その人と電話で話してから なかなか会いに行くことができないまま日が経っていった。
少し、落ち着いた。
いや冷めたわけではない。
『会いたい。』のは本音。
だが、毎日の生活の中、そればかりが中心ではいられない。
仕事に時間を注ぎ、家庭では妻との時間もなくてはいけない。
『会いたい』を伝えるだけでもいいだろうか。
その電話を入れるのもタイミングを逃す。
少々、もやもやした気分だ。
「じゃあまた、ご連絡くださいますか?」と言ったその人は、きっと私が電話を
するまで待っているんだろう。
何も連絡をしてこない。
あの男には会っているのだろうか。

「・・伯さん、佐伯さん」
会社の席で声を掛けられ、はっと気付いた。
「あ、すまない。何だったかな?」
仕事の時にふと世界を踏み違えてしまった。
「お疲れですか?あ、これ、先日の商談の際の・・・・」
また仕事モードに変わる。
今日こそは、電話をかけてみよう。
まだ会える約束はできないけれど、今夜は私のほうがその人の声が聞きたい。

今日はここまでと締めくくり退社した。

作品名:紗の心 作家名:甜茶