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紗の心

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「あ、あなた」
「うふふ、紗希さんを襲った男でしょ。私のお出かけのお供をしてくださっているの」
楠木の妻は小さな封筒を男に渡した。
「ごめんなさいね。嫌な役目を頼んでしまって。じゃあ送ってください」
その男は、ドアを開け、楠木の妻とその人を乗せ、会場となるホテルまで送り届けた。

会場の某ホテルは、華やいだ雰囲気はあるものの どこかよそよそしく感じた。
「やっぱり、私が来るようなところではないようです」
「駄目よ。自信持って私の傍に居てくれなくては、私がきちんと立ち振る舞えないでしょ。本当は、こういう集まりは苦手なの。ひとりで居たら震えてしまうわ。
ね、紗希さんよろしく」
「奥様」
「それも今日はNGよ。お兄さんと同級生なんだから、『お姉さん』とでも呼んで。
いい、ここの中で、私がご挨拶をする方はしっかり覚えておいて。挨拶でも向こうから
笑顔たっぷりに来る人は、紗希さんは言葉を交わさなくていいから。じゃあ参りましょう、紗希」
「はい」
この時間は、まだ男性は疎らにしか見かけない。
病院の非番か、融通の利く個人医院の医者といったところだ。

「紗希さん、飲み物をふたつ、そうね、オレンジジュースとソーダ水がいいかしら」
その人は、楠木の妻の指示に従って、壁の脇のコーナーへ取りに行った。
それを手にして 挨拶に向かったのは、『あの方』の同級生らしい男性とその妻だった。
楠木の妻は、声を掛けると、「宜しかったらお飲み物をどうぞ」と流暢に挨拶をした。
横にいるその人を紹介しながら、暫く話した。
その人も横で掛けられた質問に答えた。
「ではまた、のちほど」
そのほかの人には挨拶に回らず、ボーイから受け取ったジュースとクッキーを持って
脇の椅子に腰掛けた。
「もし、私たちに何かあっても、このご挨拶してゆく方々が、何らかの力になって
くださるわ、きっと」
「私は、こんなにしていただいても御礼のしようがありません。どうかそこまでの
お気遣いは」
「いいの。愉しんでいるんですから。なんて言ったら紗希さんに失礼ですけどね。
あ、そろそろ主人も来る頃ね」
他のご婦人の旦那様も姿を見せ始めた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶