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紗の心

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「すみません。もう大丈夫ですから」
「紗希さん、楠木が医者という事を隠していたことを気付いていらっしゃったと、
先日主人から聞きました。嘘をついていた事は楠木に代わって謝るわ。
お兄さんのことも話したと言っていたけど、ちゃんと伝わったかしら」
「奥様も兄をご存知だったと伺いました」
「そう、加納君は学生の時のいい思い出。私は、家の為に主人を選んでしまったけど。
まあその前に加納君には振られてしまったようなものだけど」
「あ、お紐は苦しくないですか?立食ですから少し着た丈を上げておきますね」
「紗希さんは、いつからお着物に興味を持たれたの?」
「幼い頃からだと思います。母方の祖父母は 時代もあると思いますが、年中和服で
過ごしていましたし、父の仕事もそちらの関係でしたから、冬は ほとんど着物を着て
ましたから」
「それでお好きなの」
「着物はお正月くらいしか着せてもらえなかったですけど、病気になって医者に行くときには浴衣が着せてもらえるんです。といっても丈夫な子でしたから、そんな記憶も
2、3回くらいでしたが」
「優しい家庭に過ごされたようね」
「あ、すみません。私つい おしゃべりになってしまいました。こんな話して」
「あの車のこと、私が仕組んだのよ」
突然の告白にその人は驚いた。
「どう?怖かった?何かされたらと心配した?主人の事でも浮かんだ?紗希さん、
人を簡単に信用しては駄目よ。私は人が騙してたり、都合のいいことを言って近づいて
くる人、欲を剥き出しにしてくる人、そんな人が回りにいる家庭に育ったの。
だから、貴女がそういう目に合ったときにどうするかと思って」
「奥様、ひどいんじゃ。本当に怖かったです。どうして?」
「意地悪したかったの。って言えば、いいのかしらね。でも私は、そんなことはできないつもり。主人も私も今は、助けてあげられることもあるでしょう、でも、この先はわからない。貴女にお兄さんからの預かり物や貴女がくださる返済のお金を渡したときに、
何かあってもいけないから。しっかりしなさいって教えたかったの」
「奥様、返済は私の物ではありませんから」
「もうほとんど済んでるのよ。家の手配の分も月々の妾の生活費としてもその中から
出しているから、実際は、私たちにはさほどの負担はないから」
そんな話の途中、その人は、着付けを終えた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶