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紗の心

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道で立ちすくしたその人は、我に返った。
振り向けば、そこは、楠木の家の前だった。
(ここ・・。何だったの・・)
その人は、楠木の妻の言う通り 正面の玄関のベルを押した。
インターフォン越しに声が帰ってきた。
「どうぞ、入って来て」電話で聞いたあの声だ。
その人は、門扉を開け、オークル色の落ち着いた玄関ドアのアンティーク仕上げの
真鍮取っ手を引いた。
「お待ちしていたわ」
開けたその玄関ホールに楠木の妻が立っていた。
その人は、深く一礼すると、挨拶をした。
「加納紗希です。今日はお手伝いに上がりました」
「はい、宜しくお願いします。さあ上がって。こちら」
「あの、その前に。私がここへ来るとき、くる・・」
「とりあえず、上がってから、お話を聞くわ。どうぞ」
「はい。失礼します」
その人は、楠木の妻の後に着いて 奥の和室へと通された。
「さて、来てすぐですけど、着せていただける?」
「はい」
楠木の妻は、羽織っていたガウンのような上着を脱ぎ、肌着の状態になった。
その人は、部屋にひと通り揃えられた着物や小物を確認した。
「では、宜しくお願いいたします。まず肌着を直させていただきます」
「着物は着ても、帯が締めにくくなってね」
「奥様、今日は、どういったことで着られるのですか?」
「軽いパーティーかしら。落ち着かないけど立食のわさわさってした同業者が親睦とか
懇親会とかいって自慢したりするような。あまり気も進まないけどこれも仕方ないこと
なの」
「大変ですね」
「紗希さんってお呼びしてもいいかしら」
「はい」
「今日は、真っ直ぐこちらへ?」
「いえ、奥様に頼まれたという車に乗ったら、分からないところへ連れて行かれて」
「まあ、何かされたの?怖かった?」
その人の目が潤んだ。
「すいません。お着物に付くといけませんから」
バッグからティッシュペーパーを出し、目頭を押さえた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶