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紗の心

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月は変わり、暑い日が続いてはいるが、ふと吹く風が穏やかに感じ始めた。

その人から電話がきた。
「逢いたい」と。
私は、約束をした。
待ち合わせ場所は・・・。
あの男と食事した、あの店だ。
車を駐車場に停めていると、その人が、駆け寄ってきた。
「佐伯さん。今日は食事しましょうよ。給料がはいったから、ね。」
その人は、手を繋ぎ、店内に入った。
黒い服の男の後に案内されたテーブルには、あの男・楠木がいた。
その人は、その男に言った。
「今日は、知り合いの方をお連れしたの。お伝えしていなくてごめんなさい。
いいでしょ、ご一緒して」
その人は、どちらに座ろうか、少々迷った様子だが、その男の横に座った。
「もう、丸テーブルなら良かったのに」と小さな独り言を言った。
「佐伯さん、こちら楠木さん。私の兄の知り合いの方でお医者様なの。
私も先日入院したとき診てもらった先生。楠木さん、こちらは、佐伯さん。
今私が仲良くして頂いてる方です。ちゃんと紹介しておこうと思って」
私とその男は、なにやら気まずく、滑稽な初対面の挨拶を交わした。
その人は、私とその男に お互いの紹介を始めた。
私とその男にとっては、充分承知の事だった。
「・・って紹介したけど」
料理が運ばれてきて、会話が途切れた。
「食べましょ。私の奢りですから、遠慮なく」
その人が、ひと口食べたので、私とその男も食べ始めた。
膝に掛けたナフキンで口元を拭うと話を続けた。
「私がご紹介しなくても、おふたりはお知り合いでしたか……」
私たちは、料理を口に運ぼうとしてそのまま止まった。
「あ、どうぞ、召し上がって」
と言われても、私は、皿にソレを置いた。
「佐伯さん、そうなんでしょ?いつからですか?初めから?」
私は、答えに困った。何気なくその男を見た。
その男は、料理を口に運んで目を合わさなかった。
(何だよ!)

作品名:紗の心 作家名:甜茶