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紗の心

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翌日、昼にかかる頃、その店へと出かけた。
すでに、あの男の車が、駐車場の端に停まっていた。
店内に入ると、黒い服の男に案内された。
「急にすまなかったね。まあ今日はゆっくり私の話に付き合ってくれないか」
「どうも」席に着いた。
「勝手に、オーダーさせてもらったよ。嫌かもしれんが、私の招待ということで頼むよ」
順に運ばれてくる料理を食べながら、その人の話をした。
もちろん、昨日私が会ったことは、知らないことだ。話すつもりもない。
そんなことは知ったことかと思うことも、その男は、真面目に話す。
そんなことを私に相談するなということも、その男は、真剣に聞いてくる。
そのややうざったい話ばかりの裏には、その人を思う気持ちを感じた。
「・・そのぉ、セックスはできないが、抱きしめてもいいだろうか?」
「けっして勧めたくはないですが、紗希さんは嬉しいんじゃないでしょうか。
まあ、奥様には内緒の方がいいとは思いますが」
医者という職業、肩代わりができるほどの財を持っていようと、大切な人の前では、
所詮同じオトコだと思った。
美味しい料理を味わいながら、ライバルとも共同体でもない男と語らった時間は、
案外面白かった。

夜、妻を実家に迎えに行った。
(義父母だけでは)食べきれないからと持たされた食材や荷物を抱え、家へと入った。
「たくさん貰ったね」
「そうね。貰ってあげないと悪くしちゃうだけだから、遠慮なく貰ってきちゃった」
現実の生活が目の前にあった。

休暇の最終日は、ほとんどお疲れ休みだ。
夕方になって「さてと」と妻とふたり、また明日からの仕事のために気合を入れたと
いったところか。

今日も暑い日のようだ。それぞれに仕事に出かけた。
久し振りの出勤に 何から手をつけようかと思うほど、仕事が待っていてくれた。
その人も、頑張っているだろうか。
もう体調は、大丈夫だろうか。
何日かたったある日。
営業の帰り道、その人の家の付近を通りかかった。
車で路地にはいり、その人の家の門扉が見えた。
風呂敷包みや鞄を持った若い女性が、その家に入って行った。
開いたドアからわずかにその人の笑顔が見えた。
(今日は、お稽古の日なのか)
私は、駐車スペースで方向を変え、路地から帰った。

作品名:紗の心 作家名:甜茶