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紗の心

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すでに上半身を脱いでいる私は、ズボンを脱ごうと少し腰を上げた。
その人がソファーから立ち上がり隣の部屋へと行ってしまった。
(あん?どうしたんだ)
ズボンを穿き直した。
その人が戻ってきたとき、手に薄茶の折りたたんだ布を持っていた。
「佐伯さんにどうかと思って」
手にしていたのは、男ものの浴衣だった。
「でも、これ」
首を横に振り、「違う。佐伯さんの。羽織って」
浴衣を広げ、私に向けた。
私が立ち上がると、後ろに回り、肩に浴衣を掛けた。
「はい、手はここ。どうですか?」
その人は、私の浴衣の前を重ね合わせると、ぎゅっと抱きついてきた。
「私が帯」
そういうその人は、自分の身なりなどわかっているのだろうか。
浴衣を床に擦らせたまま、紐もなく、前が開いてしまうのも構わず、私に抱きついていた。
腰に抱きついたまま、私を見上げ、真面目な顔で言った。
「下着・・パンツからふんどしにしてみますか?」
「あ・・いや、このままでいいよ」
「ふぅーん、残念」
だが……私は初めての下着に戸惑いを感じていた。
その人は、積極的だ。こと着物のことになると人格(ひと)が変わるのか。
「出かけたい?」
「ううん、ここだけでいいんです。佐伯さんが浴衣姿がみたいって言ってくださったから、私も着せたかった。この『トンボ』の柄が好きなんです。佐伯さん似合ってる。」
どうなることかと、どこか心落ち着かなくなっていたが、少し解消された。
その人を抱き寄せた。
まだ糊がきいてパリパリした布地は、その人との間を邪魔しているようだ。
「こうしてくっついていたら、じきに肌に馴染みますから。そうなるまで今日は一緒に居て欲しい」
その人は、私をソファーに腰掛けさせると、膝の前にしゃがんだ。
靴下を脱がせる為だったとわかった。
*    
     *
フローリングの床に敷かれたラグの上、その人の浴衣は、きれいに広がり、
白い肌のその人がその上に横たわる。
髪を纏めていた髪留めを外して絵画を描くように柔らかな髪が広がる。
ほどいた髪が絵図に加わった。
その絵図をそのまま眺めていたいほど、私はこのシーンに見惚れた。
(こんなのは、初めてのことだ。セックスよりも官能的な気持ちだ。
だからその肌にも触れたい)
その人は・・・。
その人は、どんな顔を見せてくれるんだろう。
その人は、何を想うのだろう。
いつになく、私の脳裏に妄想に似た想像が湧き上がる。
     *
*    

作品名:紗の心 作家名:甜茶