紗の心
その人の様子から、気付いていないと安心していた。
「大丈夫。仕事のことだから。紗希さんと何をして過ごそうか?あ、本当に傷はないの?」
「ほんとよ。見る?」
その人は、裾を開いて見せてくれた。穿き込みの浅いパンティーの上には何も傷跡はない。
「良かった。傷つけられていなくて。あれ?ちょっと待って紗希の盲腸は何で左?」
浴衣に限らず、着物は右脇が開いている。ひらりとめくっただけでは左腹しか見えない。
「あら、変ですね。よく気付きました。佐伯さんえらい」
その人は、私の頭を撫でてくれた。
「こら、本当はどうだ」
私は、無邪気にもその人の浴衣の裾をはだけて、盲腸の傷がつくあたりを見た。
左腹と同じように傷のない腹部だった。白い肌に小さな布がその人を覆っている。
その端を引っ張るとすぐにでも脱げそうだ。
「小さいパンツ」
「着物の腰にラインが出てしまうから。昔は穿かなかった人もいるらしいけど、
それは、すかすかして私は無理」
「上は?」
その人は、ふっと息を吐いた。
「佐伯さんの勉強のためね。胸元も着物用の下着やブラジャーがあるんですけど」
「けど?」
「今は着けてません。肌着だけ。恥ずかしいな。なんで告白しているんでしょ、私」
その人の帯の上部(胸元)は柔らかく私の掌に感じた。
「低反発ナニヤラみたいだ」
胸元に置いた私の手の上に手を重ねた。
「どきどきしてる。伝わりますか?」
静かなその人の声に私も静まった。
「もっと触れないと分からない」
私は胸元の重ね目に手を挿し入れ、鼓動を感じた。
「どきどきしてるね。もっと(どきどき)する?それともあいつのことが気になる?」
その人は浴衣の上から私の手を握り締めた。
「すこしだけなら、ここでしてみようか」
小声で耳元に話しながらその人をソファーへと凭れさせた。