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紗の心

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会社に着いたが、あの男からの連絡もない。
[紗希さんは見つかりましたか?]
その返事にあたるメールが届いたのは、昼近くになってからだった。
[僕の病院に居ます。僕の事も分かってしまいました。あの人に話すつもりです]
[紗希さんは、大丈夫なのですか?]
[虫垂炎で数日入院することとなりました。ご心配なく。誠意を持って治療してあげます
から]
私は、ひとまず安心した。
すぐにでも、様子を見に行きたい。
だが、見舞いに訪れるわけにはいかない。
わたしとあの男の関係がわかってはいけない。
その人が私に連絡をくれるのを待つしかなかった。
その日も次の日もその人からの連絡はなかった。
病気の身と病院内という場所を考えれば、当然のことかもしれないが、
いつになく気に掛かる。
そのうえ、あの男がその人に何を話したのかも。

夏季の長期休暇を前に 仕事の方は忙しくなった。
その人のことを考える時間が気にならなくて都合がいい、と納得させながら営業に
まわった。
それでも、出ないとわかっている携帯電話に2、3度電話を入れてしまった。

私が6日間の休暇にはいった日、その人から電話がきた。
その人は、電話に出られなかったことを私に謝り、入院していたことを話してくれた。
私は、その話を聞きながら「みずくさいな」とその人に言った。
だが、その間、ひと言もあの男のことは出てこなかった。
(ふたりは、どんな話をしたのだろう?)
その人に「逢いたい」と告げた。
その人も「逢いたい」と答えてくれた。
私は、休みの一日をその人に逢うために都合をつけた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶