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紗の心

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駅へと向かう道は、夕方から晴れたおかげで まだ明るさが残っていた。
会社からは面倒な道のりも、家路へはわりと交通の便がいいとわかった。
順調に家に向かう私をどう思っているだろうか。
もうすっかり、気持ちをあの方に向けているかもしれない。
見送りのときに言われた「いってらっしゃい」はどういう意味なんだろう。
まだまだ、私の日常にはなかったことが起きるが、よく理解できていない。
こんな出来事が起こるなんて、自分の中には、微塵もなく、どうするかを考えることすら考えにない現実。
そうだ!現実なんだ。
あの日の偶然から始まった。
偶然というのもどういう定義のもというのか私の理系でも文系でもない頭では
理解しがたい。
気になる人を見かけた。いや、見かけた人が気になった。
理性やモラルなどの入り込めない感情が私を動かし、素直な行動をしてしまった。
これでは、『オス』という分類になるのか。
そんな堂々巡りを繰り返しながら最寄り駅に着いてしまった。

日もすっかり暮れてしまった。
妻の好きなケーキがある洋菓子店に立ち寄った。
何か買って帰ろうと思ったが、何の記念日でも、ましてや今朝のことを思い出すと
買わずに店を出た。
「ただいま」
「おかえりなさい」
テーブルの上には妻の手料理が並んでいた。
「今日は、蒸し暑かったでしょ。棒棒鳥サラダなんてどうかなって」
「美味しそうだね。着替えてくるよ」
「あ、待って」
振り向いた私を腰に手をあてじっと見た。
「やっぱり、ネクタイ締めてるのかっこいい」
「なんだよ。変なやつだな。もういいか」
「どうぞ」
妻は料理の続きを始めた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶