紗の心
私は、手の甲でその人の頬を撫でた。
なんだかとても愛しく思えた。
その人も私の手に頬を擦り寄せるように甘えた。
手をひるがえし、掌で頬を包むように触れると、ふっと離れた。
「佐伯さんは、どれ?」
「ん?」
「どのお菓子にされます?」
私は、ほとんど適当に指差した。どれでも良かった。
その人の笑顔が見られるだけで買った甲斐がある。
「じゃあ、私はこちらを。いただきます」
その人がひと口大の和菓子を口へ運ぶ。
それがちょうど収まるくらいの口を開け、和菓子を食べた。
『食べる』という行為は日常なことだが、その人のソレを見ていると妙な感覚が
私の中に起きる。
私は?妻は?今までに一緒に『食べる』行為をともにしたひとに何か感じただろうか?
「佐伯さん、あまり見ないで」
私は、そんなにじっと見ていたのだろうか。
「あ、いえ。美味しそうに食べていたから」
「美味しいです。でも、食べるところ見られるのって、なんだか恥ずかしくって。
佐伯さんに限らず、友達にでも。みんなすることなのに変でしょ、きっと。
キスするより恥ずかしい」
「どうして?じょうずに、きれいに食べてますよ」
「でも・・」
俯くその人の口にキスをした。
「うん、甘い。どれ私も頂こう」
ふた口ほどで食べ終え、お茶を啜った。
その人が私を見ている。
ほんわかと微笑んだ。