小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

紗の心

INDEX|42ページ/101ページ|

次のページ前のページ
 

今日も、暑い。
『盛夏らしい日』と言えば情緒のひとつもあるだろうか。
営業車で街を走っている時、和服姿のひとを見かけた。
追い抜かして、バックミラーで様子を見た。その人でないことはわかっていたが、
このところ着物姿に目がいく。
(こういう日、あの人は、どんなものを着るんだろう)
私の理解できる範囲では、『どんなもの』と表現するのがやっとだ。
その人が、語るとなんとなくわかる気になって「綺麗です。素敵です。いい感じです」と言葉を並べて頷いている自分が滑稽に思うこともあるが、そんな私を馬鹿にも笑いもせず、優しく目を細めて微笑みかけてくれるその人に好意を感じる。好きだ。
(やっぱり、紗希さんの着物姿が見たい)
そんな私の気持ちが伝わったかのように携帯電話が鳴った。
ディスプレイのテロップにその人の名が流れる。
「はい、佐伯です」
「こんにちは、今、大丈夫ですか?」
「あ、はい。あ、待ってください」
私は一旦携帯電話を座席に置くと、広めの路肩に停車した。
「お待たせ。もしもし紗希さん。何ですか?」
(何だっていいじゃないか・・紗希さんの声が聞けたのだから)
「ごめんなさい。お仕事中でしょ。手短に話します。逢いたい。じゃあまた」
「あ、紗希・・」
ツーツーツー電話はもう切れていた。
(まったく、時々わからない人だ)
そう、いいながらニヤついている私がルームミラーの中にいた。
スケジュール手帳を開く。
(一番近いのは・・・この日か)
私は、リダイヤルをした。
「はい」
「明後日、午後6時。近くに来たら連絡します。それでいいですか?」
「はい。楽しみです」
その人との電話を切った後、スケジュール帳に書き込んだ。
誰が見るわけでもない手帳だが、暗号のような印で記入した。
再び、車を走らせた。
やっぱり、暑い。
だが、先ほどまでの不快感混じりの気分でないのは、その人のせいだと言わざるを得ない。
商談の後、早めに会社に戻ると、日報ももそこそこに、明後日の段取りをまとめた。
明日よりもまず明後日というのはかなり重症だろうか・・。

作品名:紗の心 作家名:甜茶