紗の心
「そうでしょ、彼女は貴方が好きなんだから、せめて真実を教えた時には、貴方に
抱いて欲しいと思いますよ。私がそうしてしまいますよ!」
「それは、できない」
「奥さんとの約束があるからですか?そんなのどうにだって内緒になるでしょ」
私は一気に捲し上げたが、一息ついて静かに語った。
「それに貴方の奥さんなら許してくれるのでは・・」
その男性は、黙った。
そして、ぼそりと告げた。
「出来ないんだ。からだが」と答える。
「え?」
「以前、患ってね。その後遺症というべきかな。できないんだ」と私を見た。
「こんなことまで貴方に告白させられるとは思わなかったよ。あんな魅力的な人。
たとえ結婚していたって、後輩の大事な妹だって、抱きしめて、悦び合えたらどんなに
か甘美かと想像したよ」
その男性の中の葛藤が、私にはわかる気がする。
「あの人を、紗希を慈しみ 女としても悦ばせてみたい。貴方にやってくれ。などと
頼むことはないが、思わせぶりに傷つけないで欲しい」
それから、少しお互いの話をした。
秘密を共有することになった仲間の自己紹介といったところか。
私には、まだその男性がこの場で話したことに納得や共感ばかりはできなかったし
理解しがたいことも多々あった。
その男性の携帯電話の番号とアドレスを登録した。
いや、させられたのかもしれない。
その日、帰宅した私は、妻を繁々と見つめた。
「何?もう寝ますよ」
また私は、『秘密』ができた。