紗の心
半月過ぎたある日。その日は訪れた。
以前、話をしたあの店の駐車場から出てくる車が歩道にかけて停車していた。
私は、急にウインカーを出しその駐車場へと入った。
相手も気付いたらしく、バックして再び駐車した。
私は車を降り、その車に近づいた。
「また、お会いできるのを待っていました」
「もう、関係はないと思いますが、何か?紗希と別れた報告がして貰えるのかな」
嫌味な言い回しでのバトル再開だ。
ぐっとこらえつつ、話す時間を取り付けた。
「紗希さんとは先日もお会いしました。彼女はとても楽しそうでしたよ」
「そうですか」
その男性は、先ほどまでの刺々しさはなかった。
「きっと、貴方は紗希の心をほどいたんでしょうね。僕は、あの人に 遠慮せず、
過ごしなさい。と言ってきたのですがなかなか強情なところもあって、ひとりで頑張って」
「貴方が、そうしていたんじゃないんですか?『め・・』なんて縛って」
「そうかもしれませんね」
「彼女は…彼女は、貴方のことがすごく好きだって。だからあなたしか見ていなかった。そんな彼女をただ囲って。あいや失礼。ほっといて、可愛そうでしょ」
「でもあの当時はそうしないと。まあこれは言うことでもないな」
その男性に確かめたかった。
「先日、ここの人が、貴方は医者だって言ってました。上の方に叱られていたようなので、まるっきり嘘ではないんだろうと思いました。そうなんですか?
何故、彼女に嘘をつくんですか?」
その男性は、暫く口をつぐんだまま、唇を閉じ歪めた。