紗の心
数分たっただろうか。
「行こうか?」
「はい」
私は、エンジンをかけた。
その場所から市街地までは、さほど遠い距離ではなかったが、交通規制や休日という
こともあって流れが悪い。
車内の時計が正午を回った。
「お腹空きませんか?」
「おなかの音、聞こえましたか?」
「でも、どこの駐車場も混んでるな。何か食べたいものがありますか?」
「じゃああの旗のところ」
その人が指差す先には、レストランは見当たらない。もしやと尋ね返した。
「コンビニ?」
「はい。なかなか最近のコンビニの弁当は美味しいですよ。
もし佐伯さんが嫌でなかったら」
私は、ひとまず駐車場へと入った。
「本当にいいんですか?」
「ええ、その方がずっと貴方と居られるし、・・」
(人目を気にしてのことだろうか?!)
私たちは、店内に入り、その人が持ったカゴの中にそれぞれの好みの物を入れた。
「これは、私が。車に戻られてていいですよ」
私は、店を出て、車に戻った。外の気温は高い。じんわり汗が滲む。
その人が車に戻って来た。
「お待たせ」
「何かありましたか?遅かったようですが」
「聞かないでください。お手洗い借りてたなんてこと」
「あ、すみません」
その人は笑いながら よく冷えたお茶のボトルを私の頬に付けた。
「何処で食べますか?」
私たちは木陰を見つけて車中で食べた。
次に見つけたコンビニにゴミだけ捨てに寄った。
車ばかりで過ごしたが、私は楽しかった。
その人もきっとそうであって欲しいと思った。
道路が混み合う前にその人を送った。
その人が、お礼といっしょに見せた笑顔が脳裏に焼きついた。
私は家路を辿りながら、もう一度あいつに会ってその人のことを話そうと考えていた。
だが、会うと決めてもどんな方法があるだろう。会う術がわからない。