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紗の心

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「ずいぶんかかりましたね」
やっとのこと、対岸へと辿り着いた、というほど、停車やのろのろを繰り返し渡った。
さぞ、その人は退屈をしたことだろう。
私も先ほどの話の気まずさを引きずって話しかけていない。
「佐伯さんは、運転なさっていたから疲れたでしょ。私はのんびり橋の上から川が
見られて、いい景色でした」
「気を遣わなくていいんですよ」
「佐伯さんの方こそ、いつも気を遣ってくださってるようで、年下の私のほうが恐縮してしまいます。あ、そうだ。今日は、私のこと「サキ」って呼んでくださるとかは
駄目ですか?」
「でも、あの・・・」
その人は自分の口の前に人差し指を立て口元を尖らせた。
「しー。今日は言わないで」
(紗希さんは、誘っているのだろうか?うっかり違った判断をしてあいつに言われたら
[告げ口されたら]面倒だ)
「佐伯さん?」
「あ、はい」
「やっぱり、駄目ですか?そういうの。今日は、デートでしょ?」
「デートですか?まあそんな感じですが」
「今日だけでもデートしましょ。してください。普通に」
(紗希さんは、『あの方』に遠慮していたのか、とっても好きだと言っていたのに
私とデート?私は『あいつ』を越えたのか。いずれにしても、私は今、紗希さんと
過ごすことがどきどきしてるが嬉しい。いい日にしたい)
「あ、紗希」
「はい。あら?佐伯さんは、奥様のことお名前で呼んでいらっしゃらないの?
名前を呼ぶのは抵抗がありますか?」
名も呼ばず突然話し始めることがほとんどだが、妻の事を呼ぶ時は名前だ。
さんやちゃんを付けることはあっても、[お母さん]とか[おい]と呼ぶことはないと思う。
妻が私を名前で呼ぶからだろう。
「紗希ももっと楽に話していいよ。デートなんだから」
「はい。今日はどうする?って・・」
その人は微笑む。
今日は、ずっとこの笑顔と一緒に過ごそう。

作品名:紗の心 作家名:甜茶