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紗の心

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その週は、よく晴れて営業での外回りは結構疲れた。
しかし、その疲れもその人に逢えると思うと減少するのだ。
まったくいい気なものだ。
街中を走りながら、何処へ出かけようかと考える。
家に帰っても何となく明るい私に妻も会話を弾ませた。
「あのね、あの子ったら彼女が浴衣を買ったからって自分も買ったって。
着られるのかしらね」
「誰かに着せてもらえばいいんだろ」
「買ったところでお着替え件を貰ったとは言ってましたけど」
「じゃあいいんじゃないのか。男なんて合わせてパパッと紐結んでおけばいいだろ」
「帯だってあるのよ」
そういう私も帯といっても金魚の尾びれみたいなひらひらの布の帯しかできない。
「はあ、うちに女の子でも居たら私も少し習ってみようかと思ったけど、
男の子じゃねって。でもちょっと着られるといいわよね。ねっ」
妻は、覗き込むように私を見た。
(なんだ、このタイミングは。絶対にばれていないはずだぞ)
私は少々引き攣った顔をしたかもしれない。
「この辺りは、港の花火大会がいいかしらね」
携帯電話が鳴った。あ、着信音が私のではない。
「鳴ってるぞ」
「あ、いいのメールだから。花火を見に行きましょうかって誘いだと思うけど」
「行くのか?」
「どうしようかな?きっと混んでいると思うし、夜のことでしょ。
ちょっと面倒かなとも思って」
「いつだ?」
「今度の日曜日。お勤めすると こういうお付き合いもあるのね。
初めてのお誘いだから 行かないと今後まずいかなって」
「そんな事はないと思うけど、メンバーは?」
「さあ、私が幹事じゃないから。でも部署の人たちだと思う」
「男もいるのか」
「あら、崇さん、妬いてくれるの?」
妻は嬉しそうに笑った。
「気をつけて行けよ」
妻は私の頬にキスをしてリビングを出て行った。

日曜日の夜、妻が帰って来たとき、ほんのりお酒の匂いがした。
機嫌良くそのまま眠ってしまった。

翌朝、まだ妻は起きてこない。
そっと覗くとまだ夢心地のようだ。
妻は、あまりお酒が強くない(と思う)。
私の知っている限りでは、酔っ払ったというほど飲んだのを見たことがない。
結婚前に一緒に飲んだことがあったが、さほど飲んでいないのにニコニコと
笑い上戸だった。
潤んだ瞳が色っぽかった気がする。
(可愛いとそのとき思ったような・・今は忘れた記憶だ)
そんな顔を昨夜は誰かに見せてきたのだろうか。

作品名:紗の心 作家名:甜茶