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紗の心

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その男性は、カップの飲み物をひと口飲んだ。
厳しい面持ちの中にも優しい目をしている。
「ほぼ初対面の貴方にどこまでを話すべきか。
別に話さなくても『僕が大事にしている人に手を出すな』で終わりのことですが、
それでは納得もしていただけない様子ですし。あの人は僕の事をどれくらい
話しているのかな」
「私と居るときは、貴方の話などしませんよ。ただ一度、貴方との出会ったいきさつを
聞いたことがありますが」
「店を辞めるときの金銭の肩代わりをしたとかですか。前借の借金がありましたからね」
「貴方が、病気のお兄さんのお知り合いだったとか。貴方は社長さんか何か、
ずいぶんお金持ちのようですね。私にはそういった事は、無理です。
でもお金にものを言わせて『妾』でひとの人生縛ったままでいいんですか。
彼女が気の毒とは考えませんか?」
「ずいぶんな言われ方をされますな。まあその程度の事実しかご存知ないようなら、
僕もそこまでの話。これ以上のことをお伝えすることもないでしょう。
はやく別れてくださいね。けしてあの人を傷つけないように」
その男性は席を立った。
私は、その男性が店を出るのを待って会計へと行った。支払いがされていたが、
奢られるのも癪にさわる。
一杯分の代金をレジに置いた。
「あの、さきほどの人はここへはよく来るの?」
会計に居た女性に尋ねた。
「先生ですか?」
「先生?何の?」
「お医者さまですよ」
奥から黒い服の男が急ぎ足で駆け寄って来た。
「こら、他のお客様のことをむやみに話すんじゃない」
その女性は叱られ、奥へと下がらされた。
「どうも失礼いたしました。またのご来店をお待ちしております」
店の男は深々と頭を下げて私が店を出るのを見送った。

車に乗って私は家路に着いた。
日はまだ高かったが、時間的には夕方になっていた。
家に着いたときには、まだ妻は帰って来てはいなかった。
冷蔵庫の冷茶をカップに注ぎ飲んだ。
店ではほとんど飲んでいないままだ。
(医者か・・紗希さんはそんな風には思っていない様子だったが、どうなんだろうか)
私は、確かめたかったことのわずかも聞いてないことを後悔した。
一方的な攻める言葉ばかりを並べ立てただけではないか。
その人のことを私は考えただろうかと気分が滅入った。

作品名:紗の心 作家名:甜茶