紗の心
引き寄せたせいで裾からその人のふくらはぎがのぞいた。
足袋から上に伸びる脚をどこまでも見たくなる。
耳元で囁いてみた。
「帯、ほどいていいですか?」
その人は、こくりと頷いた。
だが、慣れない手つきでほどき始めたが、案外しっかり絞まっている。
帯をほどくためには、帯締めと帯揚げというのを取らなくてはならない。
帯枕という帯を形作る道具の紐もあったりする。
時代劇に見るような悪徳代官が、くるくるっと帯を解きながら迫るシーンのようには
いかないとわかった。
その人は、きっともどかしく感じていたかもしれないが、私に気遣いながらほどき方を
耳打ちしてくれた。
やっと帯そのものをほどくまでになった。
しゅるしゅると、まさに絹擦れの音がたまらなくそそる。
3メートルほどある帯がその人から離れ、和室の真ん中にとぐろを巻いたように落ちた。
その下にも何本か紐がある。遠い道のりのようだ。
私は、座り込んだ。
手を引いて、私が胡坐(あぐら)をかいて座った間にその人を座らせた。
着物の上から抱きしめた。
帯はないものの、まだ幾重にも布がガードしているようだ。
(昔の殿は大変だったのだろうな)と心配までしていた。
それが伝わったのか?!以心伝心!
「あのね。女性の着物は、ここが開いているの。きっと先人の知恵かな。
殿方のためよって教えてくださった先生がいらしたわ」
何のことだろう?私はわからなかった。
その人が示す腋の下辺りに十数センチほどの縫ってない部分がある。
(ここのことか・・?)
「身八つ口といって、男の人が夜になると手を入れてくる場所・・では本当はないです
けど。昔の人はきものを少しずらして乳児に、ここから母乳を与えていたそうです。
そうでなければ、着物を肩から脱がなくてはならないでしょ」
「こうして入れればいいんだね」
「あ、そうじゃないっていってるのに」
私の掌に柔らかな感触を感じたと同時にその人は眉間を寄せた。
「手は胸元から入れるものだと思ってました」
その人は唇を噛んで下を向いた。
「顔をあげて」
顔をこちらに向くように指で誘う。
その人はしなやかに体をひねり、私の望むようにキスをしてくれた。
身八つ口に入れていた手を抜くと袖から腕を伝って撫でた。
仕事のせいか、柔らかな肌だが、筋肉もついているようだ。
少々着崩れをしても簡単に着なおしをするんだろうか。
乱れた襟元がまた私には興奮を促す。
だが、ここまでにしておこう。次回のために。