小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

紗の心

INDEX|18ページ/101ページ|

次のページ前のページ
 

翌日、妻の方が先に出かける予定だった。
私は、早めに仕度をして、駅まで送ったその足でその人を訪ねようと考えた。
駅で車を降りた妻は、楽しそうに構内へと消えていった。
(さてと。紗希さんの「来て」は何だろう?)
期待よりも不安の方が大きくなってきた。
普段、通る頻度は高い道だ。
今までならこの色分けされたり、車線マークが分かりづらく、急な割り込みをされる
こともある走りにくい通りとしか思わなかった。
だが営業がこの辺りが多いことを今は感謝しておこう。
ある程度の余裕でここまで走ってきた。
私は道路脇の余地に車を寄せ、停車した。
携帯電話をかけた。
その人の声だ。
「おはようございます。今近くまで着いたのですが、大丈夫ですか?」
その人の声は明るく、私の車の止め場所を勧めてくれた。
(そんな間際まで行っていいのだろうか?)
「わかりました。ではのちほど」
私は、あの路地へと入って行った。
教えられた場所は、あの寺の利用者も止める駐車スペースのようだ。
車を停めるとその人の家を訪ねた。
インターフォンを押した。
すぐさま、玄関のドアが開いて、着物姿のその人が出迎えてくれた。
「おはようございます」
「どうぞ」
私は、その人に促されて家の中へと入った。
その後にその人は門扉とドアを閉めて入ってきた。
「ほんとに来てくださったんですね。どうぞお上がりになってください」
「お邪魔します」
これで三回目になる和室へと通された。
その人の足袋と畳のシュッシュッと擦れる音が朝の空気を切っていい耳障りだ。
何もない部屋の一畳ずつにそれぞれ座る程度の距離をもって向かい合った。
その人は、座ったまま私を見ている。
ただ見られるという行為は、こんなにも恥ずかしく緊張するものか。
会社に面接に訪れる人の緊張感に似ているだろうか。とふと思った。
「・・紗希さん」
「はい」
「あの、何も持参しないままで失礼しました」
「どうぞおかまいなく」
その人の視線はまだ私に向いたままだ。
「紗希さん、私に何か、用事があったのでは」
「会いたかった。それだけです」
その人は目を細めた表情で微笑んだ。
そう言われても手も足も出ないこの状況を どう終結させればいいだろうか。

作品名:紗の心 作家名:甜茶