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戦友に捧げるブルース

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 私は久保田が女の衣服を引き裂いた時の、乳首の色を思い出していた。干葡萄のように黒ずんだ乳首。この女も同じような乳首の色をしているのだろうか。一瞬、ほんの一瞬だが確かめたい衝動に駆られる。しかしそれはすぐに理性に抑え込まれた。

 気が付けば秘書や後援会長たちはフィリピーナたちと意気投合し、すっかり打ち解けている。
 私は広い店内を見渡した。その時だった。モニカが口に含んだ水割りを、私に口移しで飲ませたのだ。私は一瞬のことに何が起こったのか理解できなかった。
 刺激的だった。官能的かと言えば、またそれとは少し違う。刺激的な口移しでの水割りだった。私は意識して喉を鳴らした。
 そしてモニカは私の手を取ると、胸の膨らみに当てた。
「お金ならもらっているからいいのよ」
 モニカの瞳はそう言っていた。その行為が金銭の授与がもたらす、ただのサービスであることはわかっている。男としてはそれでも嬉しいサービスなのだが、ただ私は複雑な心境だった。本当にモニカが久保田の孫だとしたら、彼はあの世でしかめ面をしているに違いない。

「君の両親はフィリピンにいるのかい?」
 私はどうしても確かめずにはいられなかった。確証は得られないかもしれない。それでも聞かずにはいられなかった。
「そう。田舎だけどね」
 モニカが「突然、どうして?」というような顔をして答える。
「もしかして、君の家の横には大きなバナナの木がないかな? それとイモ畑……」
 モニカの顔が強ばり、私の手を離した。今までの甘えるような表情から、一変して困惑した表情になる。
「……どうして知ってるの?」
「君はおじいちゃんのことを聞いているかい?」
「あまり……。日本人だということは聞いているけど……。バナナの木の下におじいちゃんのお墓がある」
「!!」
 私は一瞬、耳を疑った。その話が事実ならば、あの女は久保田のために墓を建てたことになる。何と情けの深い女だろう。
 そしてモニカが久保田の孫であることは、どうやら間違いなさそうだ。そこで私は深く追求することをやめた。これ以上追求したからといって何が変わるわけではない。私は久保田の墓があることだけで満足した。
 しかし運命とは皮肉なものだ。あの時、久保田があの女を強姦していなければ、モニカは存在しない。そう思うと、モニカの幸福とは何かについて考えてしまう。
「君は幸福かい?」