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戦友に捧げるブルース

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「ええ……。フィリピンでは味わえないような暮らしを、日本で味わっているもの」
 そう答えるモニカの瞳が、本心を語っていたかどうかはわからない。しかしルージュに縁取られた唇にスナックを放り込むその姿は、満更でもなさそうな印象を受けた。
(もしかして、日本の男を食い物にして、復讐を果たそうとしているのでは?)
 私の考え過ぎだろうか。そんな邪推の念が頭を過る。
「日本は太平洋戦争でフィリピンにも迷惑を掛けたっけなぁ……。日本人として謝るよ」
 別に鎌をかけるつもりはなかった。私は謝罪のつもりで言ったのだ。
 その私の言葉にモニカはクスッと笑った。
「気にしてない。気にしてない。私たち、みんな戦争のことなんか知らないよ。戦争は昔のこと。私たち、今を生きていくのに必死だもん」
 それはモニカを始めとするフィリピンパブにいる女たちの本音だろう。私はフロアのフィリピーナたちを見回した。みんな男に取り入るのに必死になっている。私は思わず苦笑した。これがモニカの幸福かとも思う。
 ならば私が久保田の孫にしてやれることは決まっていた。私は秘書を呼ぶと、その耳元に小声で囁いた。秘書は表情ひとつ変えずに黙って頷く。
「そうか……。それでは、ゆっくりと今夜を楽しむとするか……」
 私はモニカの肩に腕を回した。そして心の中で呟く。
(久保田、許せよ……)
 と……。

(了)