京都にて、ひとり
春の社員旅行は淡路島へ行った。
宿泊先の宿で、朝、とんでもないことが起こった。
隣室の騒がしさに目覚めた私が、一体何事だろうと行ってみると、部屋の中央に布団がてんこ盛りに積み上げられていて、中から誰かのうめき声が聞こえている。
その周囲を同僚数人が取り囲んで楽しそうに笑っている。
「どうしたの? 誰? どうして?」
私が積み上げられた布団を指差して尋ねると、
「こいつ、オネショしやがった!」
「いい年して!」
「大バカだぁ!」
皆が口々に言いながら笑っている。
「えぇー! 嘘ぉー! でも、それにしても……」
私は慌てて先輩の女性を呼んできて、二人で積み上げられた布団の山を崩していった。
するとその中から出てきたのは、同僚の30代前半の既婚男性だった。
当然そのことは社長の耳にも入り、後々も笑い話として語り継がれた……だろう。
『だろう』と言うのは、私がそこには一年しか在籍していなかったからだ。
ある日父からの電話で、自分の体調不良を理由に帰ってきて欲しいと言われ、ようやく馴染んだ会社をわずか一年で辞めることになった。
社長と奥さんは、私の為に送別会を開いて下さった。
「君が男性だったら是非片腕になって欲しかったのに、残念だ」
社長のその言葉に添えて、奥さんからはとても素敵な壁掛け時計を記念品に戴いた。
たった一年しかいなかった私の為に……有り難いことだ。