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京都にて、ひとり

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記憶の糸を手繰り寄せると、私は30年以上も前にタイムスリップしていく。
 そして私の眼前には、映画のコマ送りのように当時の映像が浮かんでは消えていくのだった。

 京都府N郡M町は、丹後半島の付け根中央辺りに位置するド田舎の町だった。
 私がひとりで日本海側の国道9号線を走って辿り着いた伯母のうちは、食堂と錦鯉の釣堀を町外れでひっそりと営んでいた。
 家族は伯母とその夫、出戻りの次女とその娘の4人だった。
 伯父は私を実の娘のように可愛がってくれて、京都に不慣れな私をよくドライブに連れて行ってくれた。天橋立・文殊堂、城之崎や豊岡へと。
 行く先々では美味しいものをいつもご馳走してくれた。
 従姉は私を実の妹のように接してくれた。
 彼女の娘はまだ3歳の女の子で、私から見ると妹のようであり娘のようでもある微妙な存在だった。

 そんな新しい家族との暮らしの中、しばらくは食堂や釣堀を手伝いながら、私は自分の就職先も探した。
 そしてようやく決まったのは、自動車用品や部品を販売する会社だった。
 従業員は10人ほどで、女性は私以外には経理担当の私より少し年上の人と、社長の奥さんの二人だけ。
 朝はラジオ体操で始まり、順番で誰かが『朝の一言』を言う健全な会社だった。
 そこでは誰かと顔を合わせる度に「まいど!」と言葉が交わされていた。
 面白い! 私にとって彼等の方言は新鮮だった。
 ある時、同僚の一人が私に「おいど!」と言った。
 私は初めて聞く言葉に一瞬戸惑いながらも、それも挨拶の言葉だろうと思って同じように「おいど!」と返した。
 その途端、周囲の同僚が大爆笑!
 私は驚いてみんなの顔を見回す。
「おいどっていうのはお尻のことなんだよ」
 同僚の1人がそう教えてくれたが、みんなの笑いは収まらない。
 ようやく状況を理解した私は、思わず顔が赤らむ。
作品名:京都にて、ひとり 作家名:ゆうか♪