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有明バッティングセンター【前編】

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こうして、幾度と無く撮影兼トレーニングを繰り返す最中、入り口のドアにその
様子をじっと見つめる一人の人影があった。紺のタイトスーツに身を包み、朝日
を背後に浴びて亜麻色のシルエットとなった彼女のロングストレートと、その妖
艶な肢体は、さがなら愛する人のために人間に変えてもらった人魚が海からその
姿を現したかのような幻想的な雰囲気さえ醸し出していた。

東京フライヤーズ、フロント広報 水木エレーナである。

「一郎」

その声に、一郎が振り返る。

恥ずかしそうに、微笑むエレーナ。ただし、その微笑みには、凛と咲くあのクレ
マチスの花の様な気品が漂っていた。

「・・・エレーナ」

しばし見詰め合う二人。あのロッカールームで激しく求め合ったエレーナの唇が
今そこにある。

ふと、我に返ったようにエレーナが言った。

「一郎、ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけどいいかしら。」

(あれ、俺、一郎って呼ばれていたっけ?)

そう思いながら、うれしくもあり、

「もちろん、ちょっと待ってて、着替えてくるから。」

さっきまで、何の連絡もないエレーナに対して、少々の怒りを感じていた一郎だ
が、そんなことはどこ吹く風で、いそいそと管理室へ着替えに行ったのであった。
一郎が着替えに行っている間、室内は浩二とエレーナの二人きりとなった。浩二
は突然の美女の訪問にうろたえ、所在無げに片付けを始めながら、彼女のことを
盗み見ていた。