有明バッティングセンター【前編】
深く考え込むようにちょっと親指の爪を噛み、うつむき加減に遠くを見つめるそ
のしぐさは、その妖艶な肢体とは裏腹にとてもコケティッシュな魅力を感じる。
思わずカメラを構え、写真を1枚、盗み撮りしてしまった。
「カシャ」
シャッターの音に、きょとんとした視線を浩二の方に向けたエレーナは、状況を
把握したのか、ニコっと微笑んだ。
「す、すいません。つい。」
謝る浩二に、
「その写真、1枚一郎に渡しておいて。それと一郎の写真を今度1枚くださいな。」
といってまた凛とした微笑みを向けた。
・・・・・
「おまたせ。」
着替えてきた一郎の手を握り、外に止めてあった、赤いポンティアックに乗り込
んだ。そんな様子をポーっと見ていた浩二が、ふとつぶやいた。
(ほれてまうやろ・・・・)
若干18歳、彼の春は当分来ない。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky