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有明バッティングセンター【前編】

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浩二は急いで鍵を取り、愛車(といっても自転車だが)に乗って、バッティング
センターの方向に向かってペダルを思い切りこぎ出した。

「支配人だって? マネージャーだって? しかも今や超有名人の有明一郎の?
 すごいよ、すごいよ僕。」

浩二は一郎との電話のやり取りを頭のなかで繰り返す度、顔がにやけてしまうの
を抑えられないでいた。

若干18歳、木村浩二の春がやっと来た。

最初の内は、喜びに顔をほころばせていた浩二だが、自転車に乗っている自分の
ジャージ姿を見て、「こんな格好でいいんだろうか」と首をかしげ、報道陣と野
次馬の中に分け入り、センターを開店させることで、当然、報道陣から質問の嵐
を受けるであろうし、その時何を喋ったらいいか、自分の立場をどう説明したい
いか、今の一郎の状況をどう説明したらいいかなどとあれこれ考えている内に、
とても不安な気持ちになって来たのだった。

センターの駐車場は、パラボラアンテナを上に向けた中継者数台と、カメラを抱
えた報道記者、面白いもの見たさで集まった野次馬でごった返していた。

「す、すいません。ちょっと、ごめんなさい。」

人ごみを掻き分けながら、センターの玄関先まで進み、その横にある一郎がいる
であろう、カーテンで締め切られた管理室をちらっと横目で見ながら、鍵をポケ
ットから取り出し、鍵穴に差し込んだ。中に入り、カウンターの後ろにある配電
盤を開け、主電源を入れた。

「ウィーン」

玄関の自動ドアが開き、待ちかねていた報道陣と野次馬がどやどやと入ってきた。

「いらっしゃいませー!」

浩二はニコニコしながら大きな声で挨拶をしたが、群集は彼に一切の関心を示さ
ず、どこかに一郎が隠れてはいまいかと、あちこち探しまわった。ほっとしたの
が半分、寂しさ半分の複雑な気分の浩二であった。

一通り探しまわって、一郎が練習に明け暮れた、ピッチングマシーン4号機の写
真をとったり、その前でレポーターが何やら解説したりした後、彼らはやっと浩
二の存在に気づいた。女性のレポーターがやってきて、

「あなたは、有明選手とはどういったご関係ですか?」

と聞いてきたので、浩二は待ってましたとばかり胸を張り、

「私は当センター支配人兼、有明氏のマネージャーでございます。」

と言った。一郎に全権を任された様な気分になり、自分もまた、有名人になった
様な錯覚を覚え、浩二は悦に入っていた。レポーターは、目を丸くして、

「あなたが・・・。ずいぶんお若くてらっしゃるようですが。」

と、大層驚いた様子だった。