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有明バッティングセンター【前編】

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エレーナには婚約者がいた。彼は、プロのオートバイレーサーでMotoGPの覇者で
もあった。彼だけが自分をか弱い女性として扱ってくれた。笑顔が魅力的で、い
つも手を引いてくれるそんな優しい彼に引かれて行ったのである。

そんな彼の訃報を聞いたのは3ヶ月前。レース中の事故であっけなくこの世を去
った。心の中にぽっかりと空いた穴を埋めることが出来ず、空ろな日々を過ごし
ていたが、有明バッティングセンターの戸口から顔をの覗かせた有明一郎の顔を
見た途端、あの楽しかった日々がフラッシュバックした。

びっくりするほど彼に似ていたのである。顔が似ていたかというとそうではなく、
雰囲気というか、持っているオーラが似ていたのだ。あの時、思わず一郎の手を
握り、抱きしめたい衝動を抑えながら迎えの車まで走った。今、バッターボック
スに立ち、真剣な眼差しでボールを見つめる一郎を見るに付け、突然逝ってしま
った彼への想いが甦り、胸が張り裂けそうになるのをグッとこらえていた。