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有明バッティングセンター【前編】

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「バシャ、バシャ、バシャ・・・・」

一斉にフラッシュが焚かれた。
自己紹介を促され、俺はしどろもどろになりながら、自分の経歴について簡単に
説明した。経歴といっても、有明バッティングセンターの看板おやじ以外の何も
ないのだが・・・・

「有明氏の詳しい経歴や、今回、当球団が有明氏を指名するに至った経緯につき
ましては、これからお配りする資料に掲載しておりますので、ご参考になさって
ください」

安田がそう言うなり、係りの者数人がその資料を報道陣に配り始めた。

(最初から配っときゃ、俺が、わざわざ自己紹介する必要もなかったろうが!)

俺は、おめでたそうにニヤついている、安田を睨み付けた。
手元に配られた資料には、今朝、姉の恭子が単独インタビューと称して放送した
番組とほぼ同じ内容の事柄が書かれていた。

俺の経歴。

(これはとっても薄っぺらい)

姉、恭子のプロテニスプレーヤー時代の戦績。ボールの軌跡を誰よりも正確に見
抜く事から、「コートの預言者」と賞賛されていた。事実、彼女がチャレンジし
たボールは100%彼女の指摘通りだったのだ。チャレンジ成功率100%のプ
ロテニスプレーヤーは後にも先にも西村恭子ただ一人なのだ。

「チャレンジ」とは、ボールがライン上の微妙な位置に着地した際、ラインズマ
ンの下した判定に不服の場合、宣言することで、コンピュータで軌跡を処理した
映像によってその真偽を確認できるというウィンブルドンで採用された最先端の
ジャッジ法である。