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有明バッティングセンター【前編】

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記者会見の会場となる、東京フライヤーズ選手会館講堂には、300人を超える
報道陣が謎の多い選手、有明一郎の登場を待ちわびていた。車の中で、ユニフォ
ームに着替えた俺は、選手会館裏の通用門から、出迎えの関係者にバリケードさ
れながら講堂へと向かった。その時、時計の針は午後1時を5分過ぎたところだ
った。センターからここまでは、普通に行けば4時間程で到着するはずだ。8時
に出発したので12時ごろには到着すると思っていたが、信号で車が止まるたび
に、バイクに二人乗りし、後部座席でカメラを構える輩に前方を塞がれ、気が付
けば1時間も到着予想時間をオーバーしていたのだ。

(やれやれ、ケツにタコが出来るぜ。)

球団側と打ち合わせをしている暇などない。

スカウトマンで経験豊富な安田英男は、この事態の発生をあらかじめ予測してい
たかの様に一郎に車の中での着替えを指示し、フロント広報のエレーナを使って
球団側の立ち位置と、一郎自身の立ち位置を説明していたのだった。
会見後に行われる実戦形式の公開バッティング。

「その結果が、今後のあなたと、私たち球団の運命を左右する事になるでしょう。」

エレーナの言ったその言葉が一郎の肩に重くのしかかる。
俺は、中の様子を会見場の戸口の影からそっと窺っていた。

(すごい数の報道陣だな。)

背中から汗がツーっと下に流れ落ちるのを感じた。
ポン、と肩を叩かれ、振り向くとそこには今回の仕掛け人である安田が、新調し
たであろうパリパリのスーツに身を包んで、顔中に笑みを浮かべ、立っていた。
まるで結婚式に呼ばれた、親戚の叔父さんの様に。

「よっ、一郎くん、久しぶり!」

「な、なにが久しぶりですか、安田さん!」

「えー、それでは時間も過ぎましたので、当球団が1位指名いたしました、有明
一郎氏の合同記者会見を始めさせて頂きます。」

司会の男がそう切り出し、エレーナに促されて俺、エレーナ、安田の3人は会見
場のひな壇へと向かった。