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有明バッティングセンター【前編】

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「バタン」

車のドアが閉まる。後部座席のウィンドウにはかなり強めのスモークフィルムが
張られており、外から容易に覗けなくなっている分、車内はかなり薄暗くなって
しまっていた。目が慣れるまで、車内の様子を伺い知ることが難しい状況であっ
たが、先ほどの喧騒とフラッシュからは完全に遮断された環境に身を置くことが
できた。車はクラクションを鳴らし、集まる報道陣を蹴散らしながら公道にその
黒塗りの車体を滑らせた。

「大変でしたね。」

対面式に配置されたシートの向かい側に先ほど俺の手を握って誘導してくれた人
物が座っていた。黒いキャップをかぶり、サングラスをした細身の男であった。

(男?)

キャップを取り、長い髪の毛をバサっと振りほどいて、サングラスを取った。

(いや、女だ。それもとびっきりの美人だ。)

肩下20センチ程あるロングストレートのブロンドを右手でさっとかき上げなが
ら、二重まぶたで長いまつ毛の一際大きい魅力的な目で俺を見つめ、これまた魅
力的な笑顔でニコっと笑って見せた。

(いきなり手を握られたんで、ものすごく違和感があったが・・・なるほど。)

上下黒のスリムパンツとジャケットという出で立ちで、キャップにサングラス、
身長が170センチは越えている感じだったので、てっきり細身の男だと勘違い
してしまった。

「すみません、突然手を握ってしまって。大事な腕を掴んで怪我をさせてしまっ
たらと思ってつい。」

(なるほど、合理的な理論に基づいて手を握ったという事ね。・・・残念。)

「申し遅れました。私、フロント広報の水木エレーナと申します。」

(エレーナ? 多分ハーフだな。 ちょっと日本人離れしているもんな。)

後で知ったことだが、エレーナは父がウクライナ人、母が日本人のハーフで23
歳独身であった。車内に立ち込める芳しい香水の香りを彼女に気づかれないよう
にスーっと吸い込みながらなるべく鼻の下を伸ばさないように自然に微笑み返した。