有明バッティングセンター【前編】
「ボランティアみたいなもんさ。いや、センターの宣伝活動かな?」
ちょっと見栄も張って見たくなってこう付け加えた。
「今回の優勝で特別ボーナスが出るんだぜ!」
「あら、良かったじゃない、それじゃ、私の貸したお金、返してね。」
あーあ、俺のボーナスの使い道が決まってしまった。
「おいおい、この間借りたばかりじゃないか、勘弁してくれよ。」
「いいわよ、そのかわり、安藤健太君の独占インタビュー、よろしくね。」
くっそー。抜け目のない女だぜ。
「あれ? 恭子ちゃんじゃないか、久しぶりだね」
どこかで聞いた声だ。
「あらー。安田さん。どう? いい子見つかった?」
恭子の視線の先を見ると、西大1校での練習の時、時々バックネット裏で熱心に
練習を視察していた、東京フライヤーズのスカウトマン安田英男が汗を拭きなが
らこちらに小走りに向かっていた。
「あれ? 知り合いなの?」
インタビュールームの雑踏を潜り抜け、やっとのことでこちらにやって来た安田
と、彼を親しげに見る恭子の両方を交互に見ながら俺は聞いた。
「いっちゃん、英兄ちゃんよ、覚えてないの? よくうちに来てお父さんと飲ん
でいたじゃない。」
英兄ちゃん?・・・・ああ! 俺が小学生の頃、よくうちに来て親父と飲んだく
れてたやつか。休日には二日酔いで寝込んでいる親父の代わりに良く遊んでくれ
たっけ。なんとまあ、老け込んだもんだ。その白髪交じりのオールバックで恰幅
のいい風貌はもはや英兄ちゃんというより、”英じい”だな。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky