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有明バッティングセンター【前編】

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球場で一列に並び、涙を流しながら我が西大1校の校歌を歌っている選手達の姿
を見ながら、有明バッティングセンターを父から譲り受け、選手と出会い、ここ
までやって来た道のりを思い出し、目頭を熱くしていた。
エースの安藤健太はプロへは転向せず大学進学を、女房役の木村浩二は阪神ライダ
ーズ入りを希望していたが、果たしてどうなる事やら・・・

あ、そういえば、マネージャーの坂井菜摘は早田大学医学部への進学を目指して
いたっけ。父親が地元の開業医で、西大1校始まって以来の才女で、かつ、西大
1校始まって以来の美人ということらしい。”天は二物を与えず”という諺がある
が、ありゃ嘘だな。他の3年生部員は今日の晴れ舞台を一生の思い出として、また
生涯の糧としてそれぞれの人生を歩んで行くのだろう。

今まで関わってきた全員のこれからの人生に幸多かれと祈らずには居られない。
・・・ついでに俺自身も。
そういえば、理事長が「優勝したらボーナス出しますよ。」って言っていたな。
幾ら貰えるんだろう・・・・。
ただただ、うれしくなるのだった。

優勝インタビューでお立ち台に上がり、得意げに胸を張ってあたかも自分が成し
遂げたかのような勢いで戦況を分析する監督の西脇と対照的に、清々しい涙を流
しながら喜びに浸り、言葉少なに質問に答えている健太を見ながら、これから貰
えるであろうボーナスの使い道を考え、一人ほくそ笑んでいた俺の目に、白い
ブラウスに紺のタイトスカートを身に着けた、スポーツキャスターの姿が映った。

西村恭子。プロテニスプレーヤー上がりで、俺の実姉である。
父の姓、「有明」を捨て、母方の旧姓「西村」を名乗っている。
きつい性格が災いしてか、36歳にして未だ独身である。
(弟の目から見ても、結構美人なんだが・・・)

「あらー、いっちゃんじゃない。こんな所で何してるの?」

(って、見りゃ分かるだろ。西大1校のユニホーム着てるんだから。)

「コーチだよ、コーチ! 西大1校の!」

「すごいわね。ぜんぜん気づかなかったわ。出世したわね。結構もらってるんで
しょ?」

OKサインを手で作り、胸の前で上下に振って見せた。
幼い頃から、二人とも親父のせいで金に苦労させられたからか、いつもこんな会話
になってしまう。