有明バッティングセンター【前編】
「タイム!」
突然浩二がアンパイヤにタイムを宣言し、こちらに走ってきた。
「コーチ、どう打つんでしたっけ?」
(やれやれ、二人とも大物になるぜ。)
思惑通り浩二は打球をセンター前に運び、1塁に駒を進めた。
アンダーから繰り出される打球は打者から見ればホップして見える。しかし、
実際には球が上に上がることは絶対に無く、オーバーから繰り出される打球に
比べれば落ちが少ないのである。この球を長打にしようとしてスイングすると、
当然、ボールの下を叩くことになり、結果、内野フライになることが多い。
叩きつけるように振り下ろしてちょうど良いのだ。
ファーストベース上でうれしそうに拳を振り上げている浩二が見える。
(ばかやろう。ツーベースヒット性の当たりじゃねえか。足遅せーな!)
「よし、健太、仕上げだ! 行って来い!」
健太には事前に攻略法を叩き込んでおいた。
この試合、必ずや健太がキーマンとなるであろうと踏んだ俺は、前日の敵ピッチャー
の投球をビデオに収めて、前の晩、滞在先の旅館の1室を借りて健太にタイミン
グと配球について綿密にすり合わせを行っていたのである。後は天地神明に祈るだけだ。
1アウト、ランナー1塁。4番、ピッチャー、安藤健太の登場だ。
地元応援団の一際大きな歓声に背中を力強く押されたかのように、健太は勢い良く
バッターボックスに向かって行った。俺の与えた攻略法、それは初球のストレート
狙いだった。この1球の狙いをはずしたら、後は自分の判断で好きに打って良いと
伝えてあった。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky