有明バッティングセンター【前編】
(ま、まずいな。プレッシャーを掛けちまったか。いくら怪物といえど、高校生
には違いないからな。全責任を背負ってバッターボックスに立ったら、打てるもん
も打てなくなっちまうぜ。)
そう思った俺は、健太の横に座って言った。
「おい、そう熱くなるなよ。冷静に分析して冷静に反応してこそ良い結果が生まれ
るんだぜ。練習通りやってりゃいいんだ。」
健太は、俺の顔をチラッと見た後、視線をバッターボックスで軽く素振りしている
浩二に移したまま、こう言った。
「コーチ、浩二は菜摘ちゃんのこと好きだったんですか?」
(おいおい、こんな時に何考えてんだよ!)
「知るかよ、そんな事。」
浩二をリラックスさせるために冗談めかして言ったことが、実は案外当たっていて、
健太は自分が今置かれている状況より、その事の方が気になる様子だった。
(やっぱり、高校生だな。怖いもん無しってところか。よーし、これなら何とか
行けそうだな。)
一人、心の中でほくそ笑んでいた。
カウント2−3、フルカウント。
浩二は俺の言いつけを忠実に守り、きわどい球にも手を出さず、フルカウントまで
何とか持ち込んでいた。
(次だぞ、浩二!)
思わず拳を握り締めた。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky