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有明バッティングセンター【前編】

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「くっそー!はえーぞ、安藤!」

西脇が悔しそうに、しかし何処と無くうれしそうに叫んだ。
第2球目、これもストレート。
スピードガンの数値は時速158kmを示していた。これはもはや高校球児とは
言えない。

「ブーン」

西脇のバットがうなりを上げ、むなしく空を切った。

「次!」

悔しそうに叫ぶ。
第3球目、俺が予想した通り、これもストレートだ。
なんと、スピードガンの数値は時速163kmを示していた。もはや怪物だ。
これには西脇も手を出すことが出来なかった。

「ふえー、ま、まいった!」

「やったぜ! 健太!」浩二が自分の事の様に鼻を膨らませて相好を崩した。

マウンド上では健太が堂々と胸を張り、無言のまま微笑んでいた。
彼の3球のストレートをバックネット裏からじっと見ていて、不思議なことに
気づいた。普通のピッチャーは、球の速度が速くなるだけ、指先でしっかりと
スナップを効かせるため、縦方向の球の回転が速くなる、その分、球の落ち込み
が小さくなるのだが、彼の場合は3球ともその回転がほぼ同じものであった。
打者から見るとそれは手元で急に落ちる様に見える。
分かり易く言えば、延びない剛速球なのである。

そのまま聞けば、何か打ち易い響きがあるが、プロのバッターは反射的にその
球速からインパクト時の球落ちを計算して芯で捕らえようとする。その計算に
狂いが生じるため、このボールはなかなかバットに当たらないのである。

「超高速シンカー・・・」

思わず、つぶやいた。