有明バッティングセンター【前編】
しかし、健太のボールは変幻自在に変わってしまう。イニングで変わるのでは
なく1球、1球全く異なるのである。本人は意識していないが、これがコント
ロールできる様になれば、プロでも通用するピッチャーになれるだろう。
これからが楽しみだ。
彼に対して俺の耳打ち作戦は功を奏せず、憎らしいほど三振の山を築いていった。
「よーし、俺が打つ!」
振り返ると、西脇がバットを振っていた。
(大人げねーな!)
今度は健太の顔色が変わった。
「監督、本気で行きますよ!」
「望むところだ!」
うーん、面白い、これは見ものだ。高見の見物と行くか。
俺は、健太の球筋を確認するため、バックネット裏への移動した。
そこには、あのオールバックで暑苦しいおやじが携帯で誰かと会話しながらまだ
何やらメモを取っていた。
(おっちゃんも好きだなー)
と思いつつ、「こんにちわ」と社交辞令的な挨拶を交わし、球筋を確認するため
に、キャッチャーの真後ろの位置に陣取った。
「すみません」
振り返ると、その男は唐突に名刺を差し出した。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky