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有明バッティングセンター【前編】

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「来い!」

バットを構え、スタンスを取った瞬間、いつも気が弱そうにおどおどしている
彼の顔が戦国武将のそれに変わった。

「カキーン」

ファールチップだ。バックネットにボールが当たって跳ね返る。
ふと、バックネットに目をやると、何やらメモをしながら真剣な顔つきでじっと
練習を見つめている1人の男が目に入った。年のころは50代半ばといったところ
か、白髪交じりでオールバックの頭に、浅黒い顔、サングラスをかけている。
このくそ暑いのに、長袖の白いワイシャツの腕をまくり、ネクタイを首に巻いて
いる。

(誰だろう、熱烈な高校野球ファンかな? とこにでもいるよな、こんなおやじ)
その後は気にも止めず、指導に集中して行った。

「浩二、ピッチャーのモーションを良く見ろ。ひじが正面に見えたら右足に重心
を移してアプローチに入れ。」

「はい!!」

素直だなーー。

「カキーン」

打球はピッチャの真上を高く上がり、ややしばらくの滞空時間を待った後、
ピッチャーのグローブに収まった。俺は、浩二の所へ行き、耳打ちした。

「浩二、監督に一泡吹かせてやろうぜ。監督のボールの回転は普通の投手よりも
速く、その分手元でボール1個分落ちない。手元で延びるってやつだ。お前は今
のタイミングであわせて良い。ただし、ボールの上をたたくように当てろ、ゴロ
を打つように。そうすればちょうど芯で捉えることができる。」

浩二は深くうなずき、バッターボックスに向かった。