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有明バッティングセンター【前編】

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「えー、こ、これからバッティングコーチを務めます。有明一郎です。」

営業職をやっていた割には、人前で話す事が苦手な俺は、それでも精一杯の
笑顔でこう言った。

「よろしくお願いします!」

帽子を取り、深々と頭を下げる野球部の面々。総勢63人。
レギュラーメンバーのほとんどがセンターの常連で知った顔だ。

「それじゃ、1年生は素振り、2年生はトスバッティング、3年生とレギュラー
メンバーは実践を意識したバッティングと走塁の練習を行う。」

「はい!!」

なんと純粋ではつらつとしたことか! 俺も若返りそうだ。
監督の西脇がバッティングピッチャーを買って出た。
バッティングピッチャーといっても、元プロの先発投手だった訳で、現役では
ないとはいえ、今までずっと野球に接してきたまだ30代の彼の投球は、そこら
のプロ選手を凌ぐものがあった。

「シュッ、ズバーン」

スピードガンで計ると、時速140kmのスピードが出ている。
もともと、不調で引退した訳ではないので、うなずける話だ。
夏の甲子園まであと1ヶ月、メンバーも仕上げの時期を迎えているだけあって、
練習も実践さながらの様相を呈している。

「シュッ、ズバーン」

下位打線のバッターはかすりもしない。三振の山を築いていた。
「こんなん、打てへんのやったら、止めてまえ!!」 監督の檄が飛ぶ。
3番、スラッガーの木村浩二がバッターボックスに立つ。