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有明バッティングセンター【前編】

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小学生の頃、半信半疑だった、記憶のデフォルメだと考えていた事は事実だった
のだ。やっぱり、見えるんだ、俺は見えるタチなんだ。

「いっちゃん。内の家系は代々動体視力が並外れていてね、ご先祖様は有名な
流鏑馬(やぶさめ)の名手だったそうよ。だから、私もボールの回転が良く見え
てここまで来れたんだと思うわ。」

「やぶさめって、馬に乗りながら弓矢で的を射るあれかい?」

「そうよ、かの有名な武田信玄の御弓番、有明将監の末裔なのよ。」

「・・・知らん。」

姉の恭子が現役のプロテニスプレーヤーだった頃言っていた事は嘘ではなかった
のだ。

さらに1ヶ月が経過した。
1ヶ月間、ただひたすらにボールを「ガン見」し続ける毎日を送っていた。
そんなある日、一人の男がやって来た。
ジャージ姿のその男、バットを手に取るでもなく、ベンチに腰を下ろし、ずっと
俺の「ガン見」を「ガン見」しているのである。

突然、甲高い声で、「いやー、おやっさんとそっくりやね」と言いながらすっと
ベンチから立ち上がった。
その姿、まるでミュージカル役者の様なすらっとした軽やかな身のこなしで、
顔は岩のような、どちらかと言うと石炭のような黒さで、どうも全てがアン
バランスな奇妙な、それでいてどこか魅力的な男だった。

「え? 親父の知り合いですか?」と俺。

「あー、すんません。わて、西大1校野球部監督の西脇いいますねん。」

・・・わてって・・・何処の生まれ?