有明バッティングセンター【前編】
(どうせ、カリスマ性なんて、最初から持ち合わせてねえよ。)
おびただしいブロマイドにサインを書きながら、悪態をついた。商売人の浩二は、
彼のご自慢のカメラを手に、早田大学まで出向き、テスト生として練習中の同級
生、安藤健太の写真を撮ってこれまたブロマイド化して1枚600円で販売を始
めた。
(なんで、おれのが500円でやつのが600円なの?)
どうも釈然としない。しかし、おやじである俺のブロマイドより、若くてハンサ
ムな彼のブロマイドは確実に売り上げを延ばして行った。
(うーん、物の価値を見極める才能はピカイチだね、浩二君。)
くやしいが、魅力あるものは売れる。同業者の人たちから、たくさんの感謝の手
紙がやってきた。内容を読む中に、多く見かけるのが、「有明バッティングセン
ター」の看板を使わせて欲しいというものだった。
(おう、このセンターもブランド化して来たなぁ。)
またもや、ほくそ笑む俺だった。
そんなある日、浩二が一人の男を連れて管理室にやって来た。
「社長、社長さんが来ました。」
(ん? 何をいっとるの?)
その男、年の頃は50代半ばと言ったところか、見るからに高級そうなスーツに
身を包んだ男が差し出した名刺に目を通す。
「ナミコジャパン株式会社 代表取締役 後藤 三郎」
(ナミコジャパンといったら、ゲーセンにあるゲーム機を作る会社じゃないか、
そこの社長が何の用なの?)
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky