小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

有明バッティングセンター【前編】

INDEX|108ページ/123ページ|

次のページ前のページ
 

にんじんの皮を剥き、たまねぎを切りながらエレーナは中嶋をバット職人、西脇
源五郎に会わせた時の事を思い出していた。源五郎が、

「いい人見つけたわね、彼、とってもいい眼を持っているわ。龍眼って言うのよ。」

とエレーナに言ったのを思い出した。

その時は、野球用語か何かだと思い、聞き流していたが、今日の会話でその意味
を理解した。一郎が中嶋と同じ雰囲気を持っているが、どこが似ているかという
部分を特定できないでいたエレーナだったが、今夜、中嶋の写真を見つめる一郎
の横顔を見ながら、自分がその眼差しに愛しさを感じている事を悟った。背中で
感じる一郎の気配は、懐かしい彼の物と同質な安らぎを与えていた。

ブランデーグラスに入れたキャンドルがやさしい炎を揺らすテーブルに向かい合
って二人、並べられた料理の皿にナイフとフォークを立てながら、赤ワインの仄
かな酔いを感じていた。

「一郎」

エレーナがつぶやきとも取れるトーンで呼びかけた。

「ん?」

「ごめんなさい。」

「何が?」

こういう状況で、あやまられた時、大抵の場合は悲しい結果になる。今まで、数
々の修羅場をくぐって来た俺は、こういった展開を幾度となく経験して来たのだ。

「私、一生彼の事、忘れられないわ。私、あなたの後ろに彼の影を追っているん
だもの。もちろん、一郎のことは好きよ。愛しているわ。でも、彼は私の一部な
の。取り去ることは出来ないわ。そんな女、愛せるわけ無いわよね。」

(なんだ、そんな事か。言わなくてもいいのに。やさしい女だ。)

「そりゃ、俺だって男だよ、他にもっと好きな人がいるって言われりゃ嫉妬もす
るさ。でもね、心が通い合う相手っていうのはそう居るもんじゃない。「You got
mail」って映画見たことあるかい? 現実の世界ではいがみ合う二人がお互いを
知らないメールの世界では、惹かれあうというストーリーだけど、そこが一番大
切だって事が、バツイチの俺には身に沁みて分かるよ。所詮、あっちへ逝っちま
った奴に勝てるわけないし、そいつも含めて愛しちゃうもんね。」