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有明バッティングセンター【前編】

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リビングの中央に鎮座している、白い革張りのソファーに腰を下ろし、エレーナ
の沸かすコーヒーメーカーから漂う芳醇な香りを嗅ぎながら、あたりを見回した。
ふと壁に据え付けてあるイミテーションのマントルピースの上に、見知らぬ男と
楽しそうに写るエレーナの写真を目にした。席を立ち、近寄ってその写真に見入
っていた。

「あ、それ、私の彼、中嶋実。」

(えっ?)

俺の体に衝撃が走った。

(そう、彼氏がいたのね。その年頃じゃ、居てあたりまえか。)

・・・中嶋実・・・どっかで聞いた名前。

もう一度あらためてその写真を見た。写真に写る彼は、レーサースーツに身を固
め、手にはシャンパンの瓶を持っている。

(あっ!)

去年のMotoGPで優勝した、天才レーサー中嶋実ではないか。確か・・・つい最近、
事故で死んだというニュースを耳にした気がする。俺が、どう言って良いか分か
らない表情で、エレーナを見ると、彼女は俺が全てを察したのを理解したように
うなずき、

「そう・・・逝ってしまったの・・・」

ポツリと呟いた。

「この部屋は、今の私には寂しすぎるわ。だから、一人で戻りたくなかったの。」

(・・・ギュルルル)

突然俺の腹が鳴った。

「フフフ、そうだった、お腹空いてたのよね。今すぐ作りま〜す。」

彼女はそう言って、いそいそと冷蔵庫から食材を取り出し始めた。

(俺の腹よ、よくやった! よくぞ、あの重苦しい雰囲気を打開してくれた!)

心の中でそう言いながら、空きっ腹を擦った。